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前頭葉障害のある方に対する運動学習ってどうやって進めれば良いのかな?
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こんな人のための記事です。
※ちなみに全般的な高次脳機能障害のある方に対するリハビリの進め方はこちらをご覧下さい。
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理学療法士は患者さんの基本動作能力の向上を図る上で運動学習理論を活用しますが、元々、運動学習理論は健常者をモデルとして作られたものです。
前頭葉障害のある方は学習障害を伴っていることがしばしばあり、健常者をモデルとした運動学習理論がそのまま当てはまるとは限りません。
そのため臨床では前頭葉障害のある方に対して、運動学習を促そうと工夫をこらすことが誰にでもあるかと思います。
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とは言え、どこからどう考えてリハビリを進めていけば良いのやら…。
前頭葉障害のある方に関わる上でよくあることと言えば、
● 突然怒りだしてしまう
● すぐにベッドに横になってしまう
● 練習したことを覚えていられない
● そわそわして不定愁訴が絶えない
● いつまでたっても行動に移すことが出来ない
● 状況判断が出来ない
● 傾眠傾向
ということで、前頭葉障害は程度によっては運動学習の大きな妨げとなり療法士を悩ませることもあろうかなと。
私も前頭葉障害のある方の運動学習を進める上で日々頭を捻っていますので、その気持ち凄くよく分かります。
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そんな訳でこの記事は、
● 運動学習を進めるための前頭葉障害のある方への対応方法
を、まとめました。
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前頭葉機能の全体像を理解しよう!!
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上の図はニューヨーク大学医療センター・ラスク研究所の脳損傷通院プログラムで用いられている「神経心理ピラミッド」です
この図では、前頭葉の9つの機能を7つの階層に分けてモデル化しています。
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● 下位の層は前頭葉機能を発揮するための土台となる基礎的な機能
● 上位の層は前頭葉機能を発揮することで成しえる高次な機能
● 上位の層と下位の層とが互いに影響を及ぼし合っているのが前頭葉機能の全体像という考え方をする
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例えば、記憶障害があって練習した結果を振り返ることが難しい患者さんがいたとしましょう。
私たちはつい、記憶障害のみに目がいきがちで、動画やメモに使って練習の結果を振り返ることを促しがちです。
しかし、
● 極度に疲労感を感じている人(神経疲労)
● 意欲的になれていない人(無気力)
● イライラを抑えられない人(抑制困難)
● 物事に集中できていない人(集中力/注意力)
● 情報を十分に整理できていない人(情報処理)
このように、神経心理ピラミッドで示すところの記憶よりも下位の層に大きな問題を抱えている場合には、以前の練習を振り返れと言っても無茶というものです。
まずはしっかりと起きていられるところ(神経疲労の改善)から始めて、上位の層へと順序立てて課題を設定しましょう!
続いて、個別的な主な前頭葉症状とそれぞれの対応方法の例を挙げていきます。
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易疲労性・神経疲労
肉体的にではなく精神的に疲れやすいことを指します。
脳卒中や頭部外傷などで脳にダメージを負うと、特に発症間もない急性期には日中の活動時間であっても眠りに落ちやすかったり、すぐに疲れてしまったりします。
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症状・兆候
● 日中の活動時間もボーっとしている
● 1つ1つの行動がもたつく
● 「目の前に霧がかかっているようだ」と仰る
● 認知機能に負荷の掛かる課題に取り組むとすぐに疲労感を感じる
● 会話についていけない
これらの症状があったら、易疲労性・神経疲労が悪影響を及ぼしているサインかも知れません。
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周囲が心掛けること・対応方法
● 休息の時間を確保する
● 課題を過密にせずに1日の中や1週間の中で分散させる
● 疲れたら患者本人にとって精神的に楽と感じられる課題に切り替える
● 課題に取り組む最中は周囲からの刺激を出来るだけ減らす
● 眠いときには、姿勢を正す→深呼吸→ストレッチングなど軽く身体を動かす→水分補給、という具合に気分転換
● 1日の調子の良い時間帯・悪い時間帯を知り、難易度高い課題・より複雑な認知を要求する課題は調子の良い時間帯に取り組む
端的に言えば、適度な食事、適度な運動、適度な休息を欠かさないということになります。
私もそんな生活に憧れます…
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意欲・発動性の低下
やる気が出ない、活動するエネルギーが湧かない、自分から物事を始められない。
そのような状態のことを指します。
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症状・兆候
● 自分から行動を起こすことがない
● 表情の変化が乏しい
● 何事にも興味を示さない
● 話をしていても目が合うことがない
● 話をしていても話題が広がらない
● 自分の考えが思い浮かばない
これらは意欲・発動性の低下のサインの可能性があります。
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周囲が心掛けること・対応方法
● 喜怒哀楽を大げさに伝える
● 抑揚をつけて大きく話をする
● 視線を合わせて話をする
● これから何をするのか思い出すためのヒントを出す
● 言葉やタイマーなど活動開始の合図を出す
● 他人の介助なしでもできることを行うようにする
スタッフは感情豊かに接することと、患者さんにはすぐにでも出来ることから順番に取り組むことがポイントです
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脱抑制・易怒性
エネルギーや感情を適切にコントロールできない状態です。
すぐに「キレる」状態とでも言いましょうか。
あるいは周囲を気にせず自己中心的な行動を取ってしまいがちです。
他者と交流する上でも大きな差し支えとなりえます。
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症状・兆候
● 後先を考えずに、行動、あるいは発言してしまう
● 度を過ぎて周囲の人の感情を逆なでたり害したりする
● 少しの時間でも我慢することができない
● すぐに大声を出してしまう
● じっとしていられない
● 自身で気持ちを落ち着けることができない
● 計画しても最後までやり遂げることができない
● 他人を許せない
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周囲が心掛けること・対応方法
● 不適切な行動は、はっきりと、但し淡々と指摘する(怒ったり叱りつけはしない)
● 動作や行動を合間に一時停止する癖を作る
● 自分が落ち着くような合言葉を作る
● 身体を動かして気分転換をする
● イライラしてしまうような原因から一時的に遠ざかるようにする
イライラするような原因から時間的・空間的な「間」を作ることが有効です
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注意障害
覚醒して、注意を向けて、集中して、物事の脈絡に付いていくことが持続できないことを意味します。
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症状・兆候
● いわゆる「注意散漫」な状態
● 周囲の音や物によって注意が散りやすい
● 周囲の音や物によってミスが増えてしまう
● 物事に集中できない、あるいは集中が続かない
● 課題が完了するまでにかなりの時間が掛かる
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周囲が心掛けること・対応方法
● 会話のときは視線を合わせるなど注意を引く
● 会話のときは頷いたり首を振ったり大げさにジェスチャーをするなど注意を引く
● 課題が完了するまでに患者さんに合わせてゆっくりと時間を与える
● 患者さんが元々興味・関心があったような課題に取り組む
● 情報量を多くしすぎない
● 周囲に音や物(特に動く物)、派手な色や目立つ形の物を置かないようにする
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遂行機能障害
物事を論理的に考えて推察し、計画し、問題を解決して、行動することができない状態です。
未来のことを見通して行動できない状態とも言えます。
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症状・兆候
● 物事の要点を絞り込むことができない
● より良い解決策を選択できない
● 多角的な視点から問題解決方法を考察できずにすぐに行き詰まってしまう
● 自身で目標を設定することができない
● まず何をすれば良いのか判断できない(優先順位を付けて行動できない)
● 段取りが出来ない
● 必要に応じて計画を変更できない
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周囲が心掛けること・対応方法
● 物事を伝えるときには要点を理解しやすいように伝える
● 曖昧な表現はせずに具体的に伝える
● 時間に余裕をもって計画を立てさせる
● 行う行動を具体的に計画させる
● 同時作業を避けて一つ一つの作業を確実に完了させる
記憶は”過去のこと・以前のこと・昔のこと”
遂行機能は”未来のこと・先のこと・将来のこと”です
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病識の欠如
自分自身の障害に気付いていない状態です。
周囲が障害や病気のことを指摘しても、気付かなかったり、否定したり、もっともらしいことを言って認めなかったりします。
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症状・兆候
● 患者自身は脳にダメージを負う以前と何ら変わらない状態と感じている
● 自身の障害の存在を否定する
● 自身の障害を他者から指摘されると怒りだして否定する
● 自身の健康状態は問題ないとして必要な治療を拒否する
● 誰の目にも明らかな無理なことに取り組もうとする
● 患者自身と周囲との現状認識に大きなギャップがありお互いに信頼感が築けない
● 障害が重くとも患者自身は楽観的で真剣に問題に取り組もうとしない
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周囲が心掛けること・対応方法
● 直接的に患者さんに障害を認識させようとしない
● できないこと以上にできたことに対して患者さんとともに喜ぶ
● 患者さんが信頼する第三者を見出す
● 神経ピラミッドに従い、病識の理解以前の事柄について問題となること全てに関して対応をする
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まとめ
.運動学習を進めるための前頭葉障害のある方への対応方法まとめました。
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① 前頭葉障害の全体像の把握に神経心理ピラミッドを使うと問題点が整理しやすくなる
② 際立つ前頭葉症状にいきなりアプローチするのではなく、神経心理ピラミッドにおける下位の層の問題から順序立てて対応して進める
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目の前の前頭葉障害のある方が、どのようなところがきっかけで運動学習が妨げられているのか、ポイントが整理しやすくなったなら嬉しいです♪
ありがとうございました!!
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