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ワーキングメモリの障害のある方にはどうやって運動学習を促せば良いの?
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こんな人のための記事です。
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療法士は学習を促すことで患者さんの機能・能力の向上を図る訳ですが、患者さんは練習の中で多くの情報の処理をしつつ学習を進めます。
● どのようなことが重要で注意を払うべきなのか
● どのようなことは重要でないので無視して良いのか
● 先の試行と今の試行とでどちらがより良いものなのか
このような色々な情報の処理にワーキングメモリは重要な機能を果たします。
ワーキングメモリに関する理解を深めることは、病態に応じた学習の促し方(課題の提示の仕方、フィードバックの仕方)をより良いものにしてくれることでしょう。
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ところが、ワーキングメモリには様々なことが影響して、結果、学習のパフォーマンスが変化してしまいます。
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ワーキングメモリの障害のある方に対して運動学習を進めるには、どんなことに注意しながら進めれば良いのかな?
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そんな訳でこの記事は、
● ワーキングメモリの障害のある方への運動学習の促し方
を、まとめました。
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ワーキングメモリに関して知っておきたいこと
まずは本題に入る前にワーキングメモリに関するいくつかのことを確認したいと思います。
「こんなこと知ってるよ~」という方は飛ばして読み進めてください
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運動学習におけるワーキングメモリの重要性
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ワーキングメモリは記憶の一種で短期記憶(広義)の1つに分類されます。
ワーキングメモリは情報を保持しその情報の処理を進めて適切な行動は何かを判断する機能です。
情報を処理する過程には、適切な行動をするにはどの情報に注意を向けるべきなのか、どの情報は気にしなくても良いのかの判断(情報の重み付け)を伴います。
※記憶の種類と分類について復習したい方はこちらをご覧ください。
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運動学習を進める上で情報の重み付けは欠かせません。
● 歩行練習のときに杖の出し方に気を付けるべきか足の出し方に気を付けるべきか?
● 立位バランスを保つときに足底感覚に注意を向けるべきか景色の揺れや傾き(視覚情報)に注意を向けるべきか?
● 上着を着るときに腕を通す場所は上着の形や模様で(視覚情報)判断すべきか上着の手触り(体性感覚)で判断すべきか?
通常、様々な感覚情報からフィードバックを受けることで学習は進みます。
病態、能力、訓練目的など様々な状況によって、取り組んでいる練習においてどのような情報が重要となるのかは変わります。
すなわち、適切な情報の重み付けがフィードバックを最適化し、運動学習を成功させると考えられています。
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実際、ワーキングメモリの高いほど学習の成果が挙がりやすいという報告もございます。
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一方、療法士の立場からすると、患者さんに対してどのような情報の提示の仕方をすれば学習を円滑に進められるのかを考えなければなりません。
それまでに得た患者さんに関する情報、その時の患者さんの反応、諸々の療法士としての知識や経験などを元に、適切な判断をするには療法士自身のワーキングメモリも問われます。
つまり、運動学習の成否には患者さんと療法士の両者のワーキングメモリが重要になるのではないかと思います。
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※こちらの記事でワーキングメモリとその他の記憶の機能面における違いを詳しく述べています。
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ワーキングメモリを担う脳の部位
ワーキングメモリを活用して課題に取り組むことで脳のどの部位の活動が活性化するのか(つまり活性化する部位がワーキングメモリを担う脳の部位と解釈される)は盛んに調べられているようです。
● 空間情報では右側の前頭葉と頭頂葉が活性化し、物体情報では左側の前頭葉と頭頂葉が活性化した(Smithら)
● 空間情報では右側中前頭回が活性化し、非空間情報では両側中前頭回と両側下前頭回が活性化した(Courtneyら)
● 単独の課題では前頭葉は活性化しなかったが、二重課題では前頭前野が活性化した(D’Espositoら)
● 位置に関する情報では背外側前頭前野、運動前野、補足運動野、頭頂連合野が活性化し、文字に関する情報ではブローカ野、背外側前頭前野、頭頂連合野、小脳が活性化した(Smithら)
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様々な脳の部位が関わって情報を処理していることが伺えますが、ワーキングメモリの機能を担う中枢は背外側前頭前野と考えられています。
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ワーキングメモリ機能の活性化に関わる難易度設定
ワーキングメモリでは非常に高次の複雑な作業が行われます。
ワーキングメモリに関わる神経回路で活性化の調整機能を果たしているのが、各種の神経伝達物質です。
特にドーパミンは前頭連合野に多く分布し、ワーキングメモリの活性化に深く関わっていると考えられています。
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サルを使った実験では、ドーパミンを阻害する薬を投与するとワーキングメモリ課題の成績が低下したそうです。
そこにドーパミンを補充すると成績が改善したそうです。
ただし、ドーパミンを多く補充しすぎても成績は低下してしまったそうです。
また、課題の難易度が高くなるほど前頭前野のドーパミンレベルが高くなることも知られています。
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このようなことから
● ワーキングメモリ機能が活性化するにはドーパミンが重要
● ワーキングメモリが活性化するには丁度良いドーパミンの濃度がある(濃度が高すぎても低すぎてもワーキングメモリは低下してしまう)
● ワーキングメモリが活性化するには丁度良い課題の難易度がある(課題が簡単すぎても難しすぎてもダメ)
以上のようにワーキングメモリの活性化には適切な課題の難易度設定が重要となると言われています。
運動学習を促すのに最適な課題の難易度として「7割課題(10試行したら7試行は上手く出来るが、3試行は上手くいかない)」と仰る方々もいらっしゃいます。
7割が最適かどうかは分かりませんが、神経生理学的な知見からもその患者さんにとって集中して課題に取り組むための難易度設定は常に模索する必要はあろうかと思います。
易しすぎても難しすぎてもダメだなんて脳はワガママですね
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まずはワーキングメモリを発揮できる状況を整える
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上の図は神経心理循環と呼ばれるものです。
例えば、一時的な記憶の保持が困難で学習が進まない場合、つい、どのように記憶するかという点のみを考えがちです。
しかし
● 呼吸が苦しくて物を覚えるほどの余裕がない
● 意識がボーっとしている
● 姿勢が崩れてバランスを保つことに必死になっている最中
● 摂食嚥下障害で十分に食事が摂れず元気がない
● 廃用が進んでいてすぐに疲労してしまう
● 慣れない入院生活にイライラが募って物事に集中して取り組めない
このような状態では、ワーキングメモリの障害の有無以前に、落ち着いて自分自身の周囲の状況を分析する余裕などあろうはずがありません。
神経心理循環は、人が適切に前頭葉機能を発揮するためにはターゲットとなる前頭葉機能のみに注目するのではなく、全体的な心身状態を整える必要があることを教えてくれます。
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ワーキングメモリの障害のある方に対して運動学習を促す第一歩は、前頭葉機能を発揮しやすい心身の状態へと整えていくことと言えます。
勿論、実際にはいきなり心身状態を完璧にすることはできません。
心身状態を整えることと学習を促すことを並行して進めることになります。
心身状態が整うほど、その人の持つワーキングメモリは発揮されやすくなり、より高度な学習をする準備が整うと理解すると良いと思います。
心身の状態を整えることが周囲の状況と落ち着いて向き合い学習を進める基盤となります
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ワーキングメモリの障害のされ方に応じた練習の工夫
この図は認知心理学者のAlan Baddeleyが提唱したワーキングメモリ・モデルを元に作成したものです。
ワーキングメモリは様々な感覚情報と長期記憶とを利用して適切に行動するための状況判断をする言わば「情報保持+情報処理」機能です。
ワーキングメモリの機能を担う中枢は背外側前頭前野と考えられており、それは図の中の中央実行系にあたります。
ワーキングメモリの機能が障害されている方は、図の中央実行系が上手く働かない状況にあります。
つまり、
● 自分の現在の状況においては情報の性質をどのように分類すれば良いか分からない
● 情報を性質に応じて整理することが出来ない
● どのような性質の情報が重要で注意を向けるべきなのか判断できない
● どのような性質の情報同士を組み合わせてさらに思考を深めれば良いか判断できない
● 情報を統合して導き出す結論が不適切
このようなことが起こりえます。
結果として、学習が上手く進まない訳です。
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ワーキングメモリの障害のある方に対して運動学習を促す際には、患者さんの能力に応じて最終的に情報を処理することをいくらか容易にすることが有効です。
つまり、その患者さんにとっての最終的な情報処理の難易度を適切に設定する訳だね♪
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【工夫のアイディア】重要な感覚情報を明示する
脳卒中片麻痺の患者さんに対して、その日の練習はとにかく麻痺側下肢での身体の支え方を学習してもらいたいとします。
その際、荷重した麻痺側下肢の表在感覚・深部感覚を感じ取ることが重要だとするならば、麻痺側下肢の感覚情報が重要であることをしっかりと患者さんに伝えましょう。
● 足の裏で強く踏んでいる感じはありますか?(足底の表在感覚が重要と伝える)
● 膝がグラグラしませんか?(膝の深部感覚が重要と伝える)
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【工夫のアイディア】余分な感覚情報を与えない
脳卒中片麻痺の患者さんに対して、その日の練習はとにかく麻痺側下肢での身体の支え方を学習してもらいたいとします。
その際、荷重した麻痺側下肢の表在感覚・深部感覚を感じ取ることが重要だとするならば、それ以外の練習の妨げとなる情報は与えないことがときに有効です。
● 目を閉じる(余分な視覚情報を与えない)
● 騒がしくない場所で練習する(余分な聴覚情報を与えない)
● 杖や手すりの持ち方を逐一指示しない(非麻痺側の上肢の感覚情報を気にさせない)
このほか、転倒に対して過剰な恐怖感や、それと反対に一切姿勢を崩すことない行き過ぎた安心感も練習の妨げとなることがあります
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【工夫のアイディア】導き出す結論の選択肢を明示する
脳卒中片麻痺の患者さんに対して、その日の練習はとにかく麻痺側下肢での身体の支え方を学習してもらいたいとします。
その際、いくら麻痺側下肢に荷重が出来ても上半身が過度に前傾させたくはない。
地面に対して上半身を直立させてほしいとします。
● 麻痺側の足の裏で強く踏んでいても自分の足が見えているときは身体が直立できていないことを伝える
● 3m前方の目印が見えていても麻痺側の足の裏で強く踏んでいなければ麻痺側下肢で身体を支えていないことを伝える
● 麻痺側の足の裏で強く踏んでいて、かつ、3m前方の目印が見えているときは麻痺側下肢でしっかり身体を支えていて、かつ、身体が直立であることを伝える
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まとめ
ワーキングメモリの障害のある方への運動学習の促し方をまとめました
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① ワーキングメモリは運動中に得られる様々な情報の重み付けを担う点で運動学習に深く関わる
② ワーキングメモリ機能を担う中枢は背外側前頭前野
③ ワーキングメモリが活性化するには丁度良い課題の難易度設定が必要
④ ワーキングメモリを発揮するには心身の状態に整えることが第一歩
⑤ 最終的な情報を処理することの難易度を適切に設定することが重要
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ワーキングメモリの障害のある方に対して学習を促す際の参考になったならば嬉しいです♪
ありがとうございました!!
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