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「古典的条件付け」とか「教師あり学習」とか運動学習に関する概念の整理ができないな~
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こんな人のための記事です。
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療法士は学習を促すことで患者さんの機能・能力の向上を図ります。
ところで学習は元々、心理学の範疇に含まれる概念ですが、長い間の研究を経て学習にまつわる様々な概念が生まれました。
学習の概念に対する理解を深めることは、病態に応じた学習の促し方(課題の提示の仕方、フィードバックの仕方)をより良いものにしてくれることでしょう。
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とは言え、学習は多様な視点から分類されており少々複雑です。
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〇〇学習という用語は山ほどあって混乱してしまいます
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そんな訳でこの記事は、
● 学習に関する概念
を、整理してまとめました。
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人間の行動の分類
学習の分類を整理する前に、学習とはどのような概念かを確認したいと思います。
そもそも学習は行動に含まれる概念です。
行動は2つに分類することが出来ます。
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● 生得的行動
生存するために必要な生物的・遺伝的に、生まれつき生体に備わっている行動。
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● 習得的行動
経験によって習得する生きていく中で様々に変化する行動。すなわち学習。
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しばしば学習とは
「経験あるいは練習によって比較的持続的な行動の変化が獲得されること。あるいはその過程。」
と説明されます。
これは先述の行動の分類における習得的行動にあたるものです。
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学習の分類
【学習】刺激に対する反応の変化という観点での分類
学習は元々心理学の領域において研究が始まりました。
その原点はある刺激に対してどのように反応するのかを分析することです。
”刺激に対する反応の変化”という観点で学習を分類することが出来ます。
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非連合学習
元から生体に備わっている関連の深い刺激と反応における変化です。
つまり、光刺激に対する眼の反応、音刺激に対する耳の反応、臭刺激に対する鼻の反応などです。
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慣れ(脱感作)
ある刺激を無視するようになる学習です。
例としては、暗い部屋から急に明るい部屋に行くと初めは眩しくて周囲が見えにくいですが、徐々に眩しさがなくなることが挙げられます。
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感作
ある刺激への反応を強めるようになる学習です。
例としては、暗い部屋に入ると初めは周囲が見えにくいですが、徐々に少ない光源に鋭敏になり周囲が見えるようになることなどが挙げられます。
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連合学習
元は何の関連もなかった(あるいは関連が弱かった)刺激と反応との関連付けを強化することです。
あとにも紹介しますが、音刺激と味覚に関する反応とを関連付けた「パブロフの犬」が代表例です。
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古典的条件付け(レスポンデント条件付け・パブロフの犬)
連合学習の中でも強化するのが生得的反応・生得的反射である学習です。
古典的条件付けの最も有名な代表例は「パブロフの犬」ではないでしょうか?
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ソ連(当時)の生理学者であるイワン・パブロフは犬に対して、ベルを鳴らす→食事を与える→犬が唾液を出す(唾液の分泌量が増える)ということを繰り返し経験させました。
初めはベルを鳴らした時点では犬の唾液の分泌量は変わりませんでした。
しかし、ベルを鳴らしてから食事を出すことを繰り返し経験させるうちに、ベルを鳴らしただけで犬の唾液の分泌量を増やすことに成功しました。
つまり、元々は関連性のなかった刺激(ベルの音)と生得的な反応(食事のときに唾液の分泌量が増える)の関連性を強化できた訳です。
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このように元々は関連性のない刺激と生得的反応・生得的反射との関連性を強化する学習方法を古典的条件付け(レスポンデント条件付け)と言います。
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道具的条件付け(オペラント条件付け・スキナー型条件付け)
連合学習の中でも強化するのが自発的な行動である学習です。
オペラント条件付け、あるいはスキナー型条件付けとも呼ばれる学習方法です。
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有名な代表例は学習方法にも名を残しているバラス・スキナーによるスキナー箱を用いた実験ではないでしょうか?
アメリカの心理学者であるバラス・スキナーはブザーが鳴ったときにレバーを押すと餌が貰える特殊な箱(通称:スキナー箱)を作りました。
この箱の中に空腹のマウスを入れ、自動的にブザーが鳴る→マウスがレバーを押す→餌を貰うということをマウスに繰り返し経験させました。
初めは、ブザーが鳴ったからといってマウスがレバーを押すとは限りませんでした。
しかし、ブザーが鳴ったときにレバーを押すと餌が貰えることを空腹のマウスに繰り返し経験させることで、ブザーが鳴るとマウスがレバーを押す確率を向上させることに成功しました。
つまり、元々はマウスにとって関連性のなかったブザーの音を聴くこと(音刺激)とレバーを押すこと(自発的行動)との関連性を強化できた訳です。
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このように、元々は関連性のなかった刺激と自発的行動との関連性を強化する学習方法を、道具的条件付け(オペラント条件付け)と言います。
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ちなみに、スキナーの実験では報酬を与えることで刺激と自発的行動を関連付けたため、道具的条件付け(オペラント条件付け)=強化学習と説明する方もいますがこれは厳密には誤りかと思います。
何故ならばその観点からすると古典的条件付けも強化学習となってしまい、両者の違いがなくなってしまうからです。
道具的条件付け(オペラント条件付け)の定義は、元々関連性のなかった刺激と自発的行動との関連性を強化する学習方法と理解すべきでしょう。
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【学習】習得するスキルの性質による分類
何を習得するのか、どのようなスキルを身に付けるのかという観点でも学習は分類することができます。
意思決定中心のスキルか運動制御中心のスキルかによる分類
認知学習
物事を分析する、戦略を練る、判断して選択をするなど、思考や意思決定が重要となる技能(=認知技能・認知スキル)を習得すること、あるいはその過程を認知学習と言います。
例えば、将棋を指す、スポーツのコーチングやティーチング、献立を考えるなどのスキルを学習することです。
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運動学習
知覚を手掛かりにして運動を目的に合うように制御する能力(=運動技能・運動スキル)を習得すること、あるいはその過程を運動学習と言います。
知覚を手掛かりにするので、知覚運動学習、あるいは、感覚運動学習とも呼ばれます。
例えば、歩く、ジャンプする、野球のバットを振る、サッカーボールを蹴るなどのスキルを学習することです。
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記憶の分類における手続き記憶は運動学習で習得した技能・スキルに相当します。
※記憶の分類の詳細はこちらをご参考下さい。
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規則性従って遂行するスキルか環境に合わせる臨機応変なスキルかによる分類
連続的学習
ある程度規則性があったり連続的なものの中から順序の知識を獲得するものを指します。
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認知学習における連続的学習の例としては百人一首が挙げられます。
何度も聴いているうちに”ちはやぶる~”と上の句が読まれ始めれば
”かみよもきかず たつたがわ からくれなゐに みずくくるとは”
と以降、結びまでスラスラと出てくるようになります。
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このように順序の一部をまとめることを「チャンキング」と呼びます。
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運動学習においては、グローズドスキル(closed skills)を獲得するものに相当します。
例えば、器械体操ではやり方の決まった技があり、その技を組み合わせて一連のプログラムを予め作成して演じます。
繰り返し練習をすることで、プログラムに登場する技の順、あるいは1つの技の中の身のこなしの順を覚えます。
繰り返し行うことで、次の運動を予測しながら制御することが可能となります。
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適応的学習
環境から得られる感覚情報に基づいてその環境に合わせるスキルを学習するものです。
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認知学習における適応的学習の例としては療法士の痛みに関する問診が挙げられます。
何十人、何百人という痛みを抱えた患者さんとのやり取りの中から、「ある痛みの特徴を持った人の痛みの原因はこれだ」というようなモデルが療法士の中で形成されていきます。
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運動学習においては、オープンスキル(open skills)を獲得するものに相当します。
例えば野球のバッティングが挙げられます。
野球のバッティングはピッチャーの投じたボールのスピードや軌道に合わせてバットを振ってボールに当てることが求められます。
繰り返しピッチャーの投じるボールを打とうとすることで、認知される自身が行う運動から得られる感覚情報と、運動によってもたらされる運動の結果とをすり合わせします。
そうする中で、求める運動結果をもたらす運動軌道(=運動の内部モデル)を獲得するのです。
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【学習】習得の過程による分類
パブロフやスキナーらが活躍した学習に関する研究の黎明期(1920年代~1930年代)は、刺激に対する反応を観察することで学習を分析しようとする動きが活発でした。
しかし研究が進むにつれて、刺激のあとにどのような過程を経た結果、観察されるような反応が起こるのかという疑問が生じました。
つまり学習の過程に目が向けられるようになったのです。
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ベルンスタインやシュミットが活躍した1960年代以降は、学習の過程のモデルが仮説として作成されました。
その後は、様々な学習の過程のモデルで説明できるような学習の神経機構が存在することが証明されていきました。
さらに、CT、MRI、fMRIなど機器・技術の進歩は学習の神経機構の研究を加速させることにもなったのです。
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続いては、この習得の過程による学習の分類を紹介致します。
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学習者自身の意識の有無による分類
認知学習、運動学習を含めた学習全体を考えたときの分類です。
認知学習、運動学習を問わず、学習者自身が特別に意識しているか、意識していないかによって2つに大別されます。
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顕在学習
スキルを学習する際に、学習者自身が特定の規則や知覚する情報に対して意識を向けながら学習を進めることを顕在学習と言います。
日本人が英語を習得する過程を考えると分かりやすいと思います。
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日本人が英語を覚えるときには
● 1つ1つの単語のアクセントの付け方
● ”R”と”L”の発音の仕方の違い
● 動詞の現在形や過去形の使い分け
● 単語の複数形
● 動詞の3人称・単数・現在の”s”
など様々な英語の規則などを意識しながら英語を学びます。
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潜在学習
スキルを学習する際に、学習者自身が特定の規則や知覚する情報に対して意識を向けずに学習を進めることを潜在学習と言います。
日本人が日本語を習得する過程を考えると分かりやすいと思います。
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日本人が日本語覚えるときには
● 助詞の使い方
● 接続後の使い方
● 主語や述語の位置
など様々なルールを意識することなくいつの間にか自由に使えるようになっていると思います。
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学習が進む要因による分類
認知学習、運動学習を含めた学習全体を考えたときの分類です。
認知学習、運動学習を問わず、学習が進む要因によって3つに大別されます。
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教師あり学習
教師あり学習とは、意図したこと・予測したことと、得られた結果との間の誤差を学習するものです。
つまり予測と結果との間の誤差によって学習が進みます。
エラー学習とも呼ばれます。
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教師なし学習
教師なし学習とは、予め明確な予測や基準がない中で、繰り返し課題に取り組むことで記憶が形成されていくような学習のことです。
最も多く繰り返したものが記憶として形成され学習が進みます。
使用依存性学習ともよばれます。
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強化学習
強化学習とは、試行錯誤によってより良好な結果、あるいは報酬(嬉しいと思うことや、楽しいと感じることなど)を得られるための出力・行動を学習するものです。
つまり快・不快といった報酬信号(または予想していた報酬との誤差)によって学習が進みます。
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まとめ
学習に関する概念を整理してまとめました
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● 学習は刺激に対する反応の変化という観点で非連合学習(慣れ・感作)と連合学習(古典的条件付け・オペラント条件付け)とに分類できる
● 学習は習得するスキルの性質によって認知学習と運動学習(連続的学習・適応的学習)とに分類できる
● 学習は習得する過程で学習者自身の意識するかしないかという観点で顕在学習と潜在学習とに分類できる
● 学習は習得する過程で学習が進む要因は何かという観点で教師あり学習、教師なし学習、強化学習に分類できる
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いずれ各学習の神経機構も紹介したいと思います
ありがとうございました!!
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