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部署の管理者になると部署として”質の高い医療を提供する”方向へと仕事を進めていくことが求められます。
就任したばかり(あるいはその予定)の管理者の方は、その意欲に燃える方が多いかと思いますが、中にはプレッシャーで不安な毎日を過ごす方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか?(ちなみに私は圧倒的後者でした。数ヶ月間ろくに寝付けませんでした。)
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では”質の高い医療”とはどんなもので、どうすれば提供できるのでしょうか?
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病院理念の回でも触れたように、抽象的な言葉は多くの方の賛同を得やすい一方で、そのままでは各々が具体的にイメージするものも行動の基準もバラバラということをしばしば経験します。
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結論から言えば、”質の高い医療”とは各病院や各部署なりに定義するしかありません。
しかし定義する際に欠かせない要素が存在します。
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今回は、自分の部署なりの”質の高い医療”を定義する際に欠かせない要素を紹介するとともに、それを実現するためのポイントを解説します。
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”質の高い医療”を定義する際に欠かせない要素
以下、公益社団法人全日本病院協会の「病院のあり方報告書(2015-2016年度版)」からの引用となります。
質とは効用への適合である(quality is fitness foruse)、とJuran が定義している。ISO(InternationalOrganization for Standardization)では、質とは、本来備わっている特性の集まりが要求事項を満たす程度、と定義している。質とは顧客要求への適合、すなわち、顧客満足を意味する。顧客要求はとどまることなく上昇するため、継続的な質向上の努力が必要である。
出典:公益社団法人全日本病院協会 病院のあり方報告書 2015‐2016年度版 第2章 医療の質と安全確保
つまり、質の高い医療 = 顧客要求事項と提供サービスが一致している + 継続的改善をしている
ということになります。
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患者満足については、自分たちがサービスを提供する患者の要求は何か?どうすれば満足するのか?それは地域特性、患者属性、患者家族属性によっても異なるため、質の高い医療を提供しようとする際には自分たちの顧客(患者・患者家族)が必要とするものを見つけ出すことが求められます。
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患者・患者家族を満足させる要素をある指標で数値化したり、具体的に観測可能なものに置き換えたものこそが部署の目標となります。
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部署の目標を達成すれば次はより良い方向へと行動を起こし、目標が達成できなければその原因に応じた対策を練り目標達成へ再度挑戦することになります。
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継続的改善に必要な目標の数値化とPDCAサイクル
図は継続的改善に必要な一連の行動を簡略化したものです。
● 目的:患者・患者家族を満足させるためにどのようなサービスを提供するか示したもの。具体的にしずぎると、後々振り返るときに何が欠かせない要素(element)なのか分かりにくくなるので、概念的で抽象的なものが良い。併せて、病院の理念の回でも触れたように病院の理念を含むものとなっているかも重要。
● 目標:目的を具体的にしたもの。後々振り返るときに達成できたか否かを判断する際に誰もが納得できるように、数値化可能で観察可能なものが良い。また、1つの目的でも患者・患者家族を満足させる要素を含む具体的な指標は複数ありうる。例えば、「いつまでも住み慣れた地域で暮らすことが出来る」ことを目的とした場合、「在宅復帰率」「入院してから再入院するまでの間隔の延長」「FIMの排泄関連4項目が6点以上(排泄自立の可否が在宅限界となりやすい場合)」などの指標が目標となりうる。
● 計画(Plan):目標を達成するための方法・手段やそのスケジュールなど計画を立てる。どの程度の資源を投入できるのかによって計画は変わりうる。例えば、病院の立地、病院の構造、備品、取り組む人数や誰が取り組むのか、どの程度の期間・時間を費やせるのかなど。
● 実行(Do):決められた手順・手続きがあるか、メンバー間でその手順・手続きを共有しているか、メンバーはその手順・手続きで取り組む力量を備えているかが重要。どれが欠けても正確に実行できないため、その場合は1つ前の計画に不備があるかもしれない。
● 評価(Check):計画を実行した結果、目標を達成できたか否かを評価する。目標が具体的で数値化されたものだからこそ、誰の目にも明らかに達成できた否かを判断できる。達成できた場合は、次の目的に向けて行動を起こす。未達成の場合は、その原因に応じた対策を練る。未達成の原因は大まかに「ぶれ」と「ずれ」に大別される。(詳しくはこちらで解説)
- ぶれ:知識・技術などが未熟なために生じる失敗
- ずれ:患者・患者家族が満足する要素を理解できていなかったり、物事の優先順位が判断できないために生じる失敗
● 対策(Action):失敗の原因に応じて、再度計画を立てる。場合によっては目的や目標の見直しが必要な可能性もある。
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質の高い医療にはこのような仕組みを構築し、実行し、機能しているか監視する必要があります。また、何よりも重要なことは、これら質の高い医療を実現するための一連の仕組みを、スタッフ一人ひとりが参加して、構築し、実行し、監視するような状態にすることです。
管理者一人でやろうとしていては長続きしません。また、スタッフに協力を求めても参加してもらえないとしたら、それは管理者にも原因があるのかも知れません。
管理者の役割は、スタッフ一人ひとりが質の高い医療を実現するための取り組みに参加するよう仕向けることなのです。
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まとめ
● 質の高い医療 = 顧客(患者・患者家族)の要求事項と提供サービスが一致している + 継続的改善に取り組んでいる
● 質の高い医療の実現には、それを可能とする仕組みが必要
● スタッフ一人ひとりが仕組みを構築し、実行し、監視しなければ質の高い医療は実現しない
● スタッフ一人ひとりが質の高い医療を実現する取り組みに参加するよう仕向けることが管理者の役割
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最後に
ここまで大層なことを申し上げてまいりましたが、実際にはそうそう上手くまいりません。四苦八苦しながらどうにか誤魔化しながら無我夢中の自転車操業です。
しかしながら、ふと振り返ると数ヶ月前、数年前と比べて改善していることに気が付くことがございます。ちなみにスタッフ一人ひとりも取り組み当初は苦労していても、いつの間にやら自然体でこなせるようになって気付いていません。
このようなときに部署全体のレベルアップを感じ、管理者として非常に嬉しく思います。(もちろん本来ならば目標を達成できたかのCheckの時点で気付かなければおかしいのですが、恥ずかしながら不十分なことがしばしばございます。)
継続していれば長い目でみたときに物事は良い方向へ進んで行くんだなぁと思います。
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皆様の職場では、質の高い医療の実現に向けてどのような工夫をされているでしょうか?コメントを頂ければ大変嬉しいです。
最後までご覧いただきまして誠にありがとうございました!!
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