【研究デザインの解説】コホート内ケース・コントロール研究

臨床研究への道程

備忘録として臨床研究について学んだことを記します

今回は研究デザインの中のコホート内ケースコントロール研究の特徴について解説します

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データの取り方と順序

臨床における漠然とした疑問(=CQ)を、明確で具体的な問いへと構造化した(=RQ)あとに、いよいよデータの取り方とその順序を決めなければなりません。

問いを科学的に高い水準で検証するためには、適切なデータの取り方とその順序が極めて重要です。

そしてデータの取り方とその順序によって研究方法を分類したものは一般的に「研究デザイン」と呼ばれ、研究デザインは下図のようにいくつかの型に分類されます。

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コホート内ケース・コントロール研究は、ケース・コントロール研究の亜型の研究デザインです。

コホート研究とケース・コントロール研究の良いトコ取りをしたようなものと考えてください。

コホート内ケース・コントロール研究においてデータの取り方と順序に関する特徴としては、コホート研究とケース・コントロール研究を合わせたようなものとなっています

研究者自身が介入方法を計画していない

比較対象(コントロール)がある

要因とアウトカムの測定は同時ではない(要因が先に存在しアウトカムが後に発生したことが明白)

コホートを時間を追って観察して(=前向きに観察して)ケースの発生(アウトカムの発生した観察対象者)を確認する

コホート内から適切なコントロールを選択(サンプリング)する

ケースとコントロールに関する詳細な情報は時間を遡って観察する(=後ろ向きに観察する)

以上の6点が挙げられます。

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コホート内ケース・コントロール研究では最初にケースを定義して(=どのようなアウトカムが発生したものをケースとするかを決めて)研究を開始します。

次に研究者自身がアウトカムの発生との関連を調査しようとしている要因について、後々要因の有無を確認できるメンバーを集めたコホートを設定します。

コホートの観察をして、ケースが発生したらそのケースとペアになるコントロールをコホート内から選びます。

その後、ケースとコントロールについて詳細なデータを時間を遡って調査します。

コホートを設定して時間を追って観察する点でコホート研究と同様の特徴を備えるとともに、アウトカムの発生の有無を確認した後で詳細なデータを調査する点でケース・コントロール研究と同様の特徴を備えています。

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コホート内ケース・コントロール研究は
シンセティック・ケース・コントロール研究
ネステッド・ケース・コントロール研究
とも呼ばれます

よく似た名前の研究デザインであるケース・コホート研究は
コホート内ケース・コントロール研究とは異なる研究デザインです

ケース・コホート研究についても現在勉強中です

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コホート内ケース・コントロール研究を用いるCQの型

コホート内ケース・コントロール研究を用いるのに適したCQの型は

要因とアウトカムとの関係を調べる研究

以上の型が挙げられます。

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コホート内ケース・コントロール研究が「要因とアウトカムとの関係を調べる研究」に向いている点としては

アウトカムが発生したか否かを測定し、その後時間を遡ってそれ以前に要因が存在したかを測定するので時間的な関係が明白(横断研究だとアウトカムが先に存在し、要因の原因となっている可能性を否定できない)

以上の点が挙げられます。

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なおケース・コントロール研究と同様に、コホート内ケース・コントロール研究では発生の頻度を表す指標(有病割合、発生割合、発生率、リスク)を求めることができません。

よって発生の差や発生の比(発生率差、リスク差、発生率比、リスク比)を直接求めることもできません。

コホート内ケース・コントロール研究ではケースの要因オッズとコントロールの要因オッズとを求めて、ケースとコントロールとのオッズ比を計算することで、要因とアウトカムとの関係を示すことになります。

オッズについての詳細はケース・コントロール研究についての解説の記事をご覧ください

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コホート内ケース・コントロール研究のコントロールの選び方

コホート内ケース・コントロール研究のコントロールの選び方にはいくつかの方法がありますが、代表的なものの1つである時点マッチングという方法を解説します。

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竹内久朗,鍵村達夫.コホート内ケース・コントロール研究.薬剤疫学 2013;18(2):77‐83 より引用

図の中のコホートについて
「曝露」=「要因あり」、「非曝露」=「要因なし」
とお考え下さい

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図は「要因あり」のメンバーの(a)~(e)と、「要因なし」のメンバーの(f)~(j)からなるコホートを追跡したコホート内ケース・コントロール研究において、時点マッチングによるコントロールの選択をイメージしたものです。

まず(a)がケースとなった(=アウトカムが発生した)時点で同じ観察中のコホート内の追跡中のメンバーの中からランダムにコントロールを選択する(図では(g)が選択された)

続いて(d)がケースとなった(=アウトカムが発生した)時点で同じ観察中のコホート内の追跡中のメンバーの中からランダムにコントロールを選択する(図では(b)が選択された)

さらにコホートを追跡して(b)がケースとなった(=アウトカムが発生した)時点で同じ観察中のコホート内の追跡中のメンバーの中からランダムにコントロールを選択する(図では(g)が選択された)

ケースとなった人や一度コントロールとなった人でも、他のケースが発生したときに追跡中であるならばコントロールとして選択できる(図では(g)が2回コントロールとして選択されたり、(b)がコントールとしてもケースとしても選択されている)

コホート内ケース・コントロール研究では
このようにケースとコントロールとのマッチングが行われます

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長所と短所

長所は

要因によるアウトカムであることを示すことができる(アウトカムが要因の原因だったというような因果関係の逆転が起きない)

稀な要因でも分析しやすい

コントロールの定義がしやすい(予め設定したコホート内からコントロールを選び出すため)

既存のデータを用いることもできるため短期間での研究も可能

コホートの中で詳細な調査が必要なのはケースとコントロールとして選び出されたメンバーだけなのでコホート全体の詳細を調査するコホート研究よりも省コストで済む

予めコホートを設定することで要因に関する情報調査について情報の漏れや情報の誤りが生じにくい(ケース・コントロール研究では要因に関する情報を時間を遡って調査するので情報の漏れや情報の誤りが生じやすいとされる)

以上が挙げられます。

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一方、短所は

1つのアウトカムについてしか分析できない(アウトカムを増やすと、その数だけ別々のコントロールグループを増やさねばならず、省コストの長所が失われてしまう)

発生が稀なアウトカムではコホートの追跡に長期間が必要なことがある

利用できるのは既存のデータに限られるので測定していない要因や「第3の因子」については解析できない

発生の頻度を表す指標を算出することはできない

以上が挙げられます。

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ちなみにケース・コホート研究は
コホート内ケース・コントロール研究の短所を解決するために
考え出された研究デザインだそうです

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最後に

今後も臨床研究に関して学んだことを記していきたいと思います

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ありがとうございました!!

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