藤井聡太七段の頭脳の秘密?【エキスパートの直観的思考を解説】

ニューロリハビリテーション

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藤井聡太七段と言えば今最も注目を集めている将棋棋士の一人かと思います。

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記憶に新しい2016年度~2017年度にかけてのプロ公式戦29連勝は、それまで将棋に興味のなかった方々の間でも話題になった社会現象と言って良かったでしょう。

デビュー以降、様々な史上最年少記録を塗り替え続け、最近では第91期棋聖戦挑戦者となり史上最年少タイトル戦挑戦の記録を31年振りに更新。

続く第61期王位戦でも挑戦者となるなど、その活躍はとどまることを知りません。

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かつてはNHKと囲碁・将棋チャンネルくらいしか将棋を映像で見る機会はありませんでしたし、中継の頻度は今と比べ物にならないほど少なかったです。

しかし、2010年代前半の将棋ソフトとプロ棋士の対決あたりからネット中継が徐々に盛んになり、現在ではAbeme TVやニコニコ動画で毎日でも対局を視聴することができます。

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ところで将棋の番組では対局を解説するのもプロの将棋棋士であることが一般的です。

私が番組を見ていて最も驚くのは、特に勝負が動きやすい中盤以降、解説者が一手指し手が進むたびに、その局面を見て数秒から数十秒考えるだけでスラスラとその手の良し悪しをその後の展開される局面の予想ともに述べる点です。

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勿論、細かい指し手の順や結果としての勝敗は予想と異なることがありますが、大局的な優劣の判断や、対局者の作戦の意図を大きく外すことはほとんどないと思います。

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文字通り一目見ただけで直観的に判断できてしまう訳です。

明らかに私のようなアマチュアとは頭の働きが異なるのではないかと感じます。

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そこで調べてみると、将棋の局面を見たときに将棋のプロ棋士とアマチュア棋士との脳活動の違いを分析した研究がございました。

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この研究が非常に興味深い内容でした。

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今回は、将棋の局面を見たときに将棋のプロ棋士はアマチュア棋士とどのように脳活動が異なるのか解説したいと思います。

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この記事を読むことで、ある分野のトップレベル、あるいはエキスパートと呼ばれる方々の直観思考はどのような脳活動によって可能となるのかが理解できます。

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藤井聡太七段の活躍も中継されるAbeme TVをご覧になるならば、広告なしで視聴できるAbema プレミアムがおススメです!! ABEMAの公式サイトはこちらから

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将棋のプロ棋士に至るまでの道のり

本題の前に藤井七段や羽生九段のような将棋棋士がどのような練習を経てプロ(=将棋のエキスパート)に至るのか。

その道のりを説明致します。(情報元は将棋番組、将棋雑誌の特集などです)

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現在プロ棋士として活躍する方々の多くは、小学生のうちには将棋を覚えます(早い方だと小学校入学前に将棋を覚えることもあるそうです)。

小学生のうちには地元の将棋道場でアマチュア有段者の大人も負かすほどに上達し、小学生の将棋大会で大活躍。

プロ棋士になる方々の多くは小学生のうちにはアマチュアではトップレベルに到達してしまうほどのいわゆる「天才」ばかりだそうです。

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才能を見込まれ試験に合格すればプロ棋士の養成機関である「新進棋士奨励会」に入会し、本格的にプロ棋士を目指すことになります。

奨励会入会年齢はバラつきがあるそうですが、多くは10歳~15歳ごろに入会するそうです。

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プロ棋士養成機関・奨励会に入会後は、プロ棋士目指して一心に将棋の勉強に励むそうです。

プロ棋士になった方々の一日の勉強量に関するエピソードとしては

1日の勉強時間12時間(三浦 弘行 九段)

夜の11時まで夕食も摂らずに将棋を指し続けた(森 雞二 九段)

などが有名です。

ただし勉強量に関しては人それぞれのようで真偽はともかく「1日の勉強時間1分間(屋敷 伸之 九段)」などという話もございます。

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いずれにしても、奨励会入会後に20歳でプロ棋士になれれば若い方だという感じだそうで、22~23歳くらいでプロ棋士になる方が多いようです。

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このように、多くの将棋のプロ棋士の傾向として

脳が成熟する前の10代のうちから直観的思考の訓練を開始している

10年間以上集中的に直観的思考の訓練をしている

将棋に関する直観的思考は世界トップクラスである

以上が挙げられます。

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理化学研究所による直観的思考についての研究

独立行政法人 理化学研究所 脳科学総合研究センター では「将棋棋士の直観の脳科学的研究ー将棋プロジェクトー」というプロジェクトを2007年に立ち上げました。

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このプロジェクトの目的は

脳科学的分析によって”人間に特有の直観的思考の仕組みを解明すること”です。

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ここでいう直観的思考とは

いわゆる「ヤマ勘」などとは異なり冷静な状況分析と論理的思考で成り立つ

状況を一目見て一瞬のうちに思考を完了してしまう

しかも一瞬の思考から導かれた答えの精度や水準は極めて高いものである

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先述の通り、プロの将棋棋士になった方の多くは小学生のうちには将棋を覚えています。(16歳で将棋を覚えた森雞二 九段が晩学と言われるほどです)

幼いころから将棋に特化した思考の練習を積み重ねることで、ある将棋の局面を一目見るだけでアマチュアの将棋愛好家からは想像もできないようなスピードと精度で、指し手の予測、選択、形勢の優劣の判断などを行っています。

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また、プロの将棋棋士は総勢150人ほど、アマチュアの将棋愛好家は一説には800万人とも言われています。

プロ全員が研究に参加するわけではないでしょうが、サンプル数も豊富。

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まさしくある分野におけるエキスパートたちの直観的思考の仕組みの解明には、これ以上ない研究対象だったことでしょう。

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直観的思考は2つの相から成る

理化学研究所の将棋プロジェクトでは直観的思考を2つの相に分けて、それぞれの相でエキスパート特有の脳活動の分析を試みています。

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局面を見てその状況・意味を理解する「知覚の相」

理解した状況・意味から有効な対応策を導き出す「思考の相」

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「知覚の相」は大脳の脳波を測定することで、将棋の駒の配置を見た瞬間にその局面の意味を理解する際の脳活動の特徴を分析しました。

「思考の相」はfMRIを用いることで、理解した局面の状況・意味から次の有効な一手を思いつくときの脳活動の特徴を分析しました。

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エキスパートの直観的思考の特徴

実験参加者は以下の通りです。

プロの将棋棋士:12名

アマチュアの将棋棋士(アマ2級~アマ5段):12名

将棋を全く指したことのない人:12名

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知覚の相における特徴

.3つのグループでそれぞれ、将棋の実戦の中にも登場するような駒の配置を5秒間見せられて、どこにどの駒があるかを記憶する課題を実施しました。

すると、プロ棋士は駒の配置を見て0.7秒後には楔前部と呼ばれる脳の領域が強く反応したそうです。

これはプロ棋士に特異的に反応であり、アマチュア棋士や全く将棋を指さない人たちには見られない反応でした。

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楔前部は、視覚の中枢(映像を知覚する脳領域)と体性感覚の中枢(身体のある部分が触られる、押される、熱い、冷たい、痛いなどを知覚する脳領域)との間に挟まれた場所です。

視覚と体性感覚の情報をマッチングさせて、目に見えるものがどのような位置関係にあるのかという情報に変換する機能を持っていると言われています。

目に見えるものがどのような位置関係にあるのかという情報を知覚することを視空間認知と言います。

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理学療法士として、脳卒中などで楔前部にダメージを負っている方の症状として

丁度、からくり屋敷にいるときのように、周りの景色から自分の身体の「真っ直ぐ」という感覚が狂ってしまって真っ直ぐ立っていられない。(これを姿勢定位の障害と呼びます)

遠近感が狂って遠くの物を手に取ろうとしたときに空振りする

などを経験します。

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研究では、

プロの将棋棋士は長年の訓練によって、将棋の実戦において意味のある数個の駒の組み合わせ(チャンク)と、この駒の組み合わせがいくつか配置された大きな局面(テンプレート)を記憶している。

どこにどのような駒があり、それによってどのようなチャンクがどこに配置されてどのようなテンプレートが構成されているのかということを知覚する能力は、「どこに何があるのか(=視空間認知)」を知覚する脳領域が発達することで可能となった。

と考察しています。

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ちなみに将棋のルール上、あり得ない駒の配置にしたところ、プロ棋士も楔前部が働かなかったという結果だったそうです。

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特に2010年代中ごろまで、コンピュータ将棋ソフトが示す指し手にプロ棋士がピンとこない・違和感を感じるという声がしばしば聞かれたのは、将棋ソフトの示すチャンクやテンプレートというものが、プロ棋士がそれまで目にしたことのものだったからかも知れません。

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思考の相における特徴

3つのグループにそれぞれ詰め将棋(将棋のパズル問題的なもの)を解かせました。

するとプロ棋士は1秒間以内に答えが思い付く場合には、尾状核と呼ばれる脳の部位の中の特に尾状核頭部が強く反応したそうです。

アマチュア棋士や全く将棋を指さない人では、尾状核頭部に明らかな反応はなかったそうです。

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尾状核とは大脳の深い部分に位置するオタマジャクシのような形をした部位で、大脳基底核に属します。

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尾状核はある状況に対応することを、習慣的に・繰り返し経験しているうちに、「その状況への対応の仕方・手順・戦略など」を学習すること、それを記憶すること、さらにその状況が変化したときに対応の仕方・手順・戦略を切り替えることに関わっていると言われています。

学習が深まると、その状況が訪れるとその状況への対応の仕方・手順・戦略を反応的に選択できるようになるそうです。

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尾状核を損傷させたラットを放射線状の迷路に入れてある通路にだけ報酬(エサ)を置き、行動を観察する実験が多数行われています。

これらの実験の結果では

エサの置かれた「正しい通路」とエサの置かれていない「ダミーの通路」に特に見分ける特徴がない場合、尾状核を損傷したラットは一度訪れた「ダミーの通路」に何度も行く様子が観察された(空間的なワーキングメモリの障害)。

「正しい通路」と「ダミーの通路」見分ける視覚情報が豊富にある放射線状迷路ではラットは「正しい通路」を選択できた(空間的なワーキングメモリの障害を視覚情報で代償した

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尾状核に機能に関して、ヒトを対象にした研究もあります。

Lawrence らの研究ではハンチントン病(尾状核に病変がある)のある方では、課題が切り替わってもそれに応じた選択をできずに、コントロール群よりも失敗が多かったそうです。

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このように空間的なものを認知してそれに反応的に対応することを学習・記憶・状況に応じて使い分けることを尾状核は可能としています。

プロの将棋棋士は、将棋の局面を理解する際に楔前部が強く反応したように、局面を空間的に認知しているので、さらにそれに対して適切な応手が反応的に思い付くのでしょう。

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まとめ

今回はプロの将棋棋士特有の将棋の局面に対する直観的思考を可能とする脳の働きを紹介致しました。

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直観的思考は「知覚の相」と「思考の相」の2つの相から成る。

プロ棋士は「知覚の相」で楔前部が強く反応している。これは将棋の局面を数個の駒の組み合わせ(チャンク)とその配置(テンプレート)から成る空間的なものと認知しているためと考えられる。

プロ棋士は「思考の相」で尾状核頭部が強く反応している。これは将棋の局面を空間的なものと認知してそれへの対応を習慣的に・繰り返し体験してきたためと考えられる。

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以上となります。

私も将棋を指しますので、今後はチャンクとテンプレートにも注目しながら腕を磨こうと思います。

最後までご覧いただき誠にありがとうございました!!

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