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2020年度より「理学療法士作業療法士養成施設指定規則」が改訂されました。
指定規則とは養成校における療法士教育のルールです。それに様々な変更があった訳ですが、その中の一つに脳画像が必修となったことが挙げられます。
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私の養成校時代から療法士になってからしばらくは「療法士は現象を見れば良い、脳画像など不要だ。」という考え方が主流だったような気がします。(少なくとも実習先から就職先まで脳画像の所見を話題にする療法士は一人もいませんでした。)
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実際、臨床経験2年目のころに、とある大学教授の先生とお話しした際には「自分の臨床にとって脳の中はブラックボックスで良いと思っている(=脳の中で何が起きているのか理解しなくても臨床はできる)」と仰っていたのが印象的でした。
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現在でも様々な意見をお持ちの方がいらっしゃるとは思いますが、養成校において脳画像が必修なったということは、脳画像をリハビリテーションに活用することの意義が認められたということでしょう。
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その活用の仕方の一つに、脳画像を見ることで機能障害に対する理解を深めることが挙げられます。
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ところで療法士が日々、何気なく使っている”機能”と言う言葉を言い換えるとどのような言葉になるかはご存じでしょうか?
私は、この”機能”という言葉の言い換え方を知ることで、脳画像を見る際の考え方が大きく進歩しました。
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今回はこれに関して解説致します。
ちなみに当サイトでは、脳画像を見るためのおススメ教科書もまとめています。ご参考下さい。
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“機能” = ”役割” = ”目的のために要求されること”
ハイ、いきなり結論です(笑)。
機能という言葉は役割という言葉に言い換えられます。
さらに役割とは目的のために要求されることを意味します。
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つまり、
「機能障害」=「機能していない状態」
「機能障害」=「役割を果たしていない状態」
「機能障害」=「目的のために要求されることが出来ていない状態」
と言える訳です。
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理学療法士が歩行能力が低下した患者を分析している場面を想定してみましょう。
患者はトレンデレンブルグ徴候を示しており、諸々の理学療法評価の結果、理学療法士は患者の中殿筋の筋力低下という機能障害が生じていると結論付けました。
これはつまり理学療法士が、「中殿筋が”歩行(=目的)”のために”立脚中期において骨盤を水平に保つだけの筋力を発揮すること(=要求されること)”が出来ていない状態にある」と分析していることを意味します。
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ここで重要なことは、同じ身体部位でも目的となる動作が変われば要求されることも変わるということです。
同じ中殿筋でも、平泳ぎをするときや、相撲の四股を踏む時ならば、骨盤の水平を保つことは要求されないはずです。
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機能を分析する前に、そもそもそれはどういった目的における機能なのかが理解できなければ、分析の仕方が妥当なのか怪しくなってしまいます。
脳画像で機能障害を分析する前に、脳がどういった目的においてその役割果たせなくなっているかを意識しているでしょうか?
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療法士が脳の機能障害を分析するのは運動学習という目的のため
言わずもがなですが、療法士が脳画像を分析する目的の一つはその結果を運動学習に活用するためです。
つまり、療法士が脳画像を見るときには、「運動学習において脳がどのように機能しているのか」「運動学習において脳がどのような役割を果たしているのか」を意識することが重要かと思います。
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例えば療法士が小脳が傷害されてバランスを保てない患者に関わるとしましょう。
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もし、運動学習における小脳の役割を理解していなければ、
- この患者がふらつくのは小脳が傷害されたからだ
- やはりこのふらつきは運動失調だ
- 運動失調でふらつくから手足に重錘を付けて歩く練習だ
この程度では脳画像をわざわざ見る必要はないでしょう。診断名や医師の画像所見だけ見れば十分かも知れません。
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もし、運動学習における小脳半球虫部傍部(≒古小脳≒脊髄小脳)の役割が、運動の最中に意識に上らない深部感覚(筋紡錘や腱紡錘からの感覚)を受けて、四肢の筋出力を無意識のうちに自動的(オートマチック)に調整することで、運動スキルを自動化・無意識化することと理解していれば、
- この患者がふらつくのは小脳半球虫部傍部が傷害されたからだ
- 意識に上らない深部感覚を受けて四肢の筋出力を無意識のうちに調整するシステムが破綻しているために、知らず知らずのうちにバランスを崩してしまう
- 無意識のうちに四肢の筋出力を調整することは難易度が高い
- 逆に、意識をして四肢の筋出力を調整するシステムは無傷だ
- まずは、意識に上る感覚を頼りに意識的に四肢の筋出力を調整してバランスを保つ練習から始めよう
- この患者にとって意識してバランスを保つべく四肢の筋出力の調整に利用しやすい意識に上る感覚は視覚かな?足底感覚かな?様々な課題を試しながら難易度調整をしよう
このような感じで分析するかもしれません。これならば、脳画像を見る価値はありそうです。
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両者の差は、運動学習(=目的)における脳の機能(役割)を意識して脳画像を見ているか否かです。
またそれ以前に、目的とそれにおける役割ということを意識して勉強しているかということが両者の大きな差です。
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まとめ
● 「機能」 = 「役割」 = 「目的のために要求されること」
● 機能を分析する前段階として何を目的とした機能なのか明確にすると良い
● 療法士は運動学習において脳がどのように機能しているかを理解することが重要
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いかがだったでしょうか?
今回は私が脳について勉強したり脳画像を見たりする上で常に意識している概念を紹介致しました。
皆様の勉強のヒントになったならば幸いです。
最後までご覧いただきありがとうございました!!
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